埼玉大学 研究機構 環境科学研究センター

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研究テーマ

コラム:イオンビームによる育種と環境問題

掲載:2011年06月21日

分子環境科学部門・講師 畠山 晋

おいしいトマトの品種を作る、レースに強い競走馬を作る、などのように、実用価値の高い作物や家畜などの品種を作ることを育種といいます。生物の遺伝子は数万個(ヒトでは約2万7千個)であり、その遺伝子(DNA)は、それぞれの個体でごく僅かな違いがあります。よって、その子孫がもつ遺伝子の組み合わせは膨大な数になります。このことは、ヒトの顔カタチの種類が無数にあることをみてもよくお分かりになると思います。ヒトにとって役に立つと思われる生物どうしを掛け合わせることで、より有益な性質を持った子孫が生まれてくることを期待するのが交配育種です。

さらに、今までに無かった遺伝子(DNA)の変化を持った生物を得るために、人為的な手法、つまり遺伝子に変化をもたらす放射線の照射、変異原の処理などを行なうのが突然変異育種です。イオンビーム照射による育種もその一つです。炭素や窒素原子などをイオン化して、光の速さの半分程度まで加速して生物に照射します。イオン粒子が近くを通過するときその衝撃でDNAを切断し、DNAの切断が修復される過程で変異(変化)が起こることがあります。たまたまその変化が、新しい機能や古い記憶の復元をその生物に与えることもあります。

地球温暖化など、環境の変化によって農業も変わってくるでしょう。図に示したような塩害に強い稲のように、生育環境の悪化に対応できる稲も、イオンビームによる育種によって生まれています。

(理化学研究所仁科加速器センター生物照射チーム 阿部知子チームリーダー様のご好意により掲載)